私はいつも深夜遅くに帰宅するので、外は大変冷え込んでいます。

徒歩で帰宅するため、寒さ対策は万全にしているのですが昨晩は氷点下8度。

突き刺さるような冷え込みでした。

そんな極寒の帰り道、デニムにホワイトシャツというまるで春先のように軽装なお姉さんが私の前を歩いていました。

そのお姉さんは、かなり痩せてる感じだったのですが、体をちぢこめたり、ポケットに手を入れたり、凍える素振りはまったく見せず歩いていました。

寒そうではないのですが、なんとなく元気がないというか、生気がない印象がありました。 

薄手の格好のお姉さんは、ただただ雪道をスゥーっと歩いていきます。

あまりにも軽装ですし荷物も持っていないようでしたので、すぐ近くがゴールかと思ったのですが、私の少し前をずっと歩いていきます。

家に入るわけでもありません。

駐車場の車に乗るわけでもありません。

コンビニに入るわけでもありません。

けっこう歩きました。

私は心配になってきました。

私の感覚だったら小走りで目的地に向かう冷え込みです。

私の感覚でしたら、すぐにでもコンビニに飛び込まないと死んじゃいそうな寒さです。

私の感覚でしたらある意味緊急事態の格好です。

それでもお姉さんは憑りつかれたように、同じ歩調で音もなく前を行きます。

まるで寒さとは無関係なお姉さん見ていると、なんだか現実の「人」では無いような気がしてきました。

いえそれよりも、だんだん私の方が「現実では無い空間」に迷い込んでしまったのではないか?と不安な気分になってきました。

なんだか泣きそうになってきました。

その瞬間お姉さんは突然立ち止まりました。

おもむろにスマホを出して、あたりをキョロキョロしました。

スマホの光が、お姉さんの青白い顔を薄ぼんやりと照らしています。

私はなんとなくホッとしてお姉さんを追い抜きました。

気になってしまって、追い抜いてすぐお姉さんのほうを振り返ったのですが、もうそこには誰もいませんでした。 

私は「目的地に辿り着けず、ずっと何年もさまよっている幽霊」じゃなかったらいいなと思いながら、いつものようにアパートへと続く路地を曲がって帰りました。




















不思議というには地味な話
近藤 聡乃
ナナロク社
2012-06-06

最近大好きな近藤聡乃さんのエッセイを読んでいたら、こんな「不思議というには地味な話」を体験しました、という話でした。